2024
04.16
令和スタンダード「ネタバレ消費」の行き着く先とは?

令和スタンダード「ネタバレ消費」の行き着く先とは?

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昨年あたりからよく耳にするようになった「ネタバレ消費」というキーワード。ネタバレといえば映画ですが、まさに映画選びで失敗したくないような人たちに見られる消費行動です。当たりを引くドキドキよりも聞いた通りの安心感。シックス・センスの「え?」という衝撃はもう体験できないのかもしれません。

映画選びで失敗したくないのは今も昔も変わらない

映画一本見るのに約2時間。確かに作品選びで失敗したくないですよね。5分、10分だったら駄作もネタとして楽しめそうですが、フル尺の2時間はさすがに長すぎます。

予告編、公式サイト、評価、レビュー、SNS、映画評論家のコメントなどあらゆる情報に目を通せば見る価値アリ・ナシの判断がつき、無駄な時間を過ごさずに済みます。

これはネットがあるから可能な話ですが、90年代以前はどうしていたのでしょうか?

その昔、ふと映画を見たくなった人たちはTSUTAYAにDVDを借りに行っていました。見たい作品が決まっている場合は直行直帰で即鑑賞ですが、そうじゃない人は映画難民のごとく店内をさまようことになります。なんの手がかりもなく探しているわけではありません。ランキングとPOPは必ずチェックしています。

レンタルランキング上位の人気作品だったら間違いないだろうとか、POPに店長のおすすめと書いてあれば面白いに違いないとか。

あとコーナーづくりにも工夫がありました。絶対に泣けるラブストーリー、秋の夜長は名作とともに、SFはここから見るべき、まさかの大どんでん返し、トム・クルーズ特集。いわばタグみたいなものですが、コーナーに引き寄せられるお客さんは多かったのではないでしょうか。

映画選びで失敗したくない気持ちは今も昔も変わらないと思います。それこそ1時間以上も店内をさまよい続けて、稀代の失敗作品を借りてきた夜の絶望感はディストピア100%だったはずです。

ところが今はネタバレ消費しやすい環境が整っており、ネタバレを望んでいない人の目にも余計な情報が入ってしまうくらいです。若い世代に限ったことではありません。おじさんもおばさんも、おじいさんもおばあさんもネタバレ消費を日常的に行っています。残りの人生を考えると年配者の方が時間を無駄にできないのです。

食べログにもGoogleにも出てこない店に入る勇気は?

人気コンテンツほど賛否両論があるため、ネタバレ消費にはそれなりの情報分析能力が必要です。あまのじゃく的な意見を排除しながら、信用できる筋からの情報を集めなければなりません。

全米が泣いたら全日本も泣けるのか、主役アイドルのファンが多いだけなのかも、高評価でもミュージカルなのがちょっと、原作は面白いけど実写版って大ゴケしてそう、すぐに地上波でやりそうだよね。

精一杯の推理を終えてから映画館にLet’s Goするわけですが、アマプラやネトフリでもやることは一緒だと思います。時は金なりで費やした時間は絶対に取り戻せないからです。

飲食店選びもネタバレ消費の対象です。食べログとGoogleのレビューを参考にすればハズレのお店に行かなくて済みます。良すぎてダメな場合もありますよね。コスパ重視のタイパ重視なら高級店と行列店を避けるのではないでしょうか。

そういえば福袋なんかはずいぶん前からネタバレというかネタバラシ販売されていました。ドキドキもワクワクもないコスパオンリーの新春商品です。SNSの普及以降は「こんなのが入っていたよ」と福袋の中身が全世界に拡散されるようになり、安心した人たちがそれを買い求めるというショッピング連鎖が生まれています。

すべてはインターネットのおかげです。

わたしたちがネット社会から受ける恩恵は山ほど大きいですが「自分好みの世界に入り浸ってしまうのでは?」という懸念がないこともないです。

最近、冒険していますか?

たとえば食べログにもGoogleにもSNSにも情報が一切出てこないとか。ついでに看板もメニューもサンプルもなくどこが入口かさえわからないとか。こんな謎すぎるお店に入る勇気とガッツと探求心はたぶんないと思います。

傷つきたくない人たちの「ネタバレ告白」はLINE経由で

さて、謎といえば人の気持ちです。怒っているのか、喜んでいるのか、悲しんでいるのか。なにか言う前に気持ちを知ることができれば面倒な摩擦も減りそうですが、知ったところで案外どうにもならないのが人間関係の難しい部分です。

特に恋愛感情の不透明性は想いを秘めている男女にとって大きな課題だと思います。

好きなのか、嫌いなのか、どちらでもないのか。

どちらでもないなりに好き寄りなのか嫌い寄りなのか、つまり脈アリなのか脈ナシなのか。とにかくコトを起こす前に把握しておきたいみなさんに適した恋愛手法があります。

それがTHE令和スタイルの「ネタバレ告白」です。

脈アリだとわかるまで告白できない。
告白で失敗して傷つきたくない。
本音は告るよりも告らせたい。

いよいよ恋愛の核心部分にもネタバレを求める時代になりました。玉砕覚悟で突撃していた昭和世代からするとついに来るところまで来やがったかと、大和魂はどこに置き忘れてきたのかと、情けなくて父ちゃん涙も出てこねぇやという話なのかもしれません。が、さほど目新しい話でもなく、言ってしまえば共通の友人・知人に相手の気持ちを探ってもらうだけのことです。

ただこれをLINE経由で行うと安いドラマの脚本のようなトーク履歴がスマホに記録されていきます。

せっかくなので再現してみましょう。

僕がそれとなく探りを入れると花子さんはこう言った。
「特別好きでもないけど嫌というわけでもない」と。
表情こそわからないが、花子さんの文字はどこか戸惑っているように見えた。
既読の遅さも気になるところだ。
太郎くん、キミが急いでいることは十分に承知している。
今日のバイト終わりにもう一度確認するつもりだ。
いとこの結婚式が近いため、今月は祝儀代を稼がなければならないのさ。
太郎くんは先日、次のように依頼してきた。
「脈アリか脈ナシかを知りたい」と。
おそらく花子さんの気持ちは揺れているに違いない。
夏の日の午後のマリーゴールドのように。
つまりタイミングが重要というわけだ。
同じボールでも打つタイミングによってゴロにもホームランにもなる。
僕は太郎くんと違って3年間ベンチを温めていた人間だ。
試合のときはユニフォームをわざと汚して帰って母親を安心させたものだよ。
っと、話がそれてしまったね。
安心してほしい。
僕は必ずこの任務を遂行し、キミに吉報を届けるとしよう。
ではまた今夜、よきタイミングで。

すみません。

令和っぽく書こうと思いましたが、戦場からの手紙になってしまいました。

代理人を通じて相手の意思確認をするようなイメージです。想像以上に温度差があるようなら直接交渉に持ち込む必要もなくなり、お互いに面倒くさくならなくていいよねと。気まずさが残りやすい学校や職場なんかでは案外有効なのかもしれません。

確かにそうですけど。

恋愛ドラマの相関図みたいに矢印と感情をすべて把握していたとしても、なにか起こりそうで実際に起こってしまうのが人生の面白いところです。むしろネタバレしていた方が想定外のできごとをより楽しめるのではないでしょうか。