12.16
今日もまた社長がヤバいことを言いはじめた(零細企業編)
従業員5人以下の零細企業は社長の発言に振り回されることが日常茶飯事です。入社して間もないころだと「この会社、大丈夫か?」と不安で夜も眠れないレベルですが、2ヵ月も働いていれば真顔で聞き流せるようになります。そもそも零細企業の社長はなぜヤバいことを言ってしまうのでしょうか?
零細企業はイエスマンだけが暮らせる小さな村なのか
永田町ほか政治に関わる先生方が失言を撤回&謝罪することってめずらしくないですよね。そして釈明の弁の大半は「そういう意図はありませんでした」です。政治家といえども人間ですからミスはあります。なんでもかんでも切り抜いて吊るし上げるような言葉狩りはよくないですが、口に出す前に言っていいことと悪いことの区別はあるべきなのでしょう。
一連の不正行為で会見に臨んだBIGMOTOR(ビッグモーター)前社長の兼重宏行氏が「ゴルフを愛する人への冒涜」という例のアレはみなさんの記憶に新しいと思います。
ゴルフボールを入れた靴下でお客さんの車を傷つけ、保険金の水増し請求を行ったことに対しての所感でした。空前絶後の失言としてメディアでもネットでも大きな話題となりましたが、当の兼重氏は素直に感想を語っていただけとも考えられます。ゴルフボールで叩くなんてひどい、道具をなんだと思っている、ゴルファーに失礼じゃないか。ゴルフを愛する気持ちは誰にも負けないと、そんなピュアなメッセージだったのかもしれません。
残念ながら時期、場所、立場のすべてを間違えており、誰がどう見ても火にロケット燃料を注ぐような大失言となってしまいました。
絶対的な力を持つ兼重氏のまわりはイエスマンばかりだったとかなんとか。それが今回の不正行為と関係あるかどうかはさておき、誰一人として「社長、それは違うと思います」と言えない組織環境であることは容易に想像できます。
零細企業の場合はどうでしょうか?
面と向かっては言えないですよね。零細企業はイエスマンだけが暮らせる小さな村みたいなものですから、社長がヤバいことを言っていても黙認するしかありません。
会議がないため思いつきが決定事項になりやすい
実は誰もが日常的にヤバいことを言っています。仲のいい友だちや気の合う同僚と2人でいるときなど結構際どいことを話していたりしませんか?
これが2人 → 4人 → 10人 → 30人と人数が増えれば増えるほど口に気をつけるようになります。たとえば会議中とか空気を壊すような発言は極力控えるはずです。で、会議が終わったあと「あれは絶対間違っているよね」など信頼できる人にだけ本音を明かしながら溜ったストレスを解消するわけです。
零細企業は会議らしい会議がなく、なにか議論の必要性があったとしても立ち話で済ませます。「アレがアレしているからアレやっといて」みたいにほぼ業務連絡レベルです。会議みたいに襟を正して話す場がないせいか、零細企業の社長さんは言っていいこと悪いことの区別がつかなくなり、思慮なくヤバいことを言ってしまいます。
差別的、暴力的、パワハラ、モラハラ、セクハラと時代錯誤のオンパレードです。
今さらですが「ヤバいこと」とは社員が「え、なにを言い出すの?」と思うやつ全般です。
なかでもジャストアイディア(=思いつき)はとても多いような気がします。
唐突に「天下を獲る!」とか戦国武将みたいなビッグ発言をしたりとか。ある程度人数がいれば十分な相談や根回しを経てから意思決定を伝えますが、零細企業にそのような概念はありません。社員の理解も共感も得ないまま決定事項を言いはじめるので、大真面目な話でも周囲にヤバいこと認定されてしまうのです。
ついでにまわりはイエスマンばかり。誰も反対していない、みんな納得している、つまりこの考えは正しい。ダメ出しできる人がいないため社長の暴走は宇宙の果てまで止まりません。
言ったことをよく忘れるからさらに振り回される
零細企業の社長が言うヤバいことは右から左に受け流せば済む話です。本当にヤバいことだと気づくまでまあまあ振り回されますが、入社から数ヵ月のカオスな期間を乗り切ってしまえば耳に高性能フィルターが装着されます。
が、新入社員はヤバいことの集中砲火を浴び続けます。
先輩たちはまともに聞くつもりがないので、まだ耐性のない新入社員が犠牲になります。零細企業にありがちな通過儀礼と考えましょう。
で、ヤバいことを言うよりも問題なのが「言ったことを忘れる」です。
「社長、昨日はそう言っていましたよね?」
「え、言ってないよ」
言った言わないのトラブルは概ね平行線を辿りますが、零細企業の場合は100%社長の勝ちです。政治家の先生がよく言う「記憶にございません」は零細企業でも通用します。
絶対ではないですが言われた側の記憶ってだいたい正しいですよね。でも忘れたと言われてしまえばどうにもなりません。
証拠がある場合はどうでしょうか?
手書きのメモ、メッセージ履歴、音声データなど。令和以降は社員の訴えがニュースで頻繁に報じられています。コンプラ違反のスキャンダルが明るみになり、原告勝利の判例も続出するなど証拠の有無は大きいです。
ただ残念ながら零細企業は例外なのかもしれません。
たとえばボイスレコーダーで録音した音声データを持っているとしましょう。
「社長、こう言っていましたよね?」
果たして面と向かってそんな追求ができるでしょうか。もし追求するとすれば会社を辞めるときです。
「それがどうした」
社長に一蹴されて関係がギクシャクして居づらくなります。絶対的な権力者に抗った代償が自主退職です。ヤバいこと程度では山を動かせません。
社長は言いたいことを言う、社員は言いたいことも言えない。零細企業はお父さんに逆らったら即終了のブラック家族によく似ています。
もちろん全部がそうではありません。少人数ならではの風通しのよさで働きやすい環境を構築している零細企業もあるはずです。裸の王様を見過ごすか、なんとかしようと思うか。零細企業の在り方は社長ではなく数少ない社員に委ねられているような気もします。