05.28
THE SECOND初代王者!ギャロップのネタに垣間見たフレンチの民主化
和食に中華にイタリアンなど街の至るところに飲食店はあるものの、フレンチことフランス料理を食べに行く機会ってなかなかないですよね。世界三大料理のひとつなのに、ジャンルとしては超メジャーなのに。めったに食べることがないフレンチですが、先日のテレビ番組で「あー確かに」と納得させられる6分間がありました。
どうして「パンが一番おいしかった」で人々が笑ったのか?
みなさんは「THE SECOND ~漫才トーナメント~」のグランプリファイナルをご覧になりましたか?
結成16年以上の漫才師が出場できるお笑いの賞レースです。M-1グランプリの出場条件が結成15年以内ということを考えると、THE SECONDは中堅・ベテラン組にスポットを当てた大会になっています。年齢は30台後半から40代、おじさんコンビが再ブレイクのきっかけをつかむための大会ともいえます。
133組が出場して選考会とノックアウトステージを勝ち抜き、グランプリファイナルに進出したのは8組のみ。その中には三四郎やスピードワゴンといったテレビで活躍中の人気コンビも含まれていました。
で、優勝したのは大阪吉本所属のギャロップ。ボケの林さんのハゲネタイメージが強いコンビですが、決勝の3本目に持ってきたネタが丸ごとフレンチでした。
単身フランスに乗り込み本場のレストランに弟子入りして、床履きや皿洗いなど下働きから懸命に修行を重ねて、帰国後に一流ホテルの総料理長にまで出世した青年シェフが、魂を込めて提供するフレンチのコース料理。
それを食べたお客さんの感想が「パンが一番おいしかった」と。
パン!?
オチであるこの1ワードのためだけにフル尺の6分間を費やす勇気とネタの構成は本当に見事でした。何度見ても面白いという中毒性もあります。同じく決勝に勝ち上がってきたマシンガンズも新設大会を大いに盛り上げた立役者ですが、審査結果はギャロップの圧勝でした。
よくあるイメージ「フレンチ=高級」だからウケたわけではない
漫才でもコントでもネタで笑いを取るには観客の共感が欠かせません。小劇場の舞台だとなにを言っているのかよくわからないシュールさでウケるパターンもありますが、THE SECONDのような賞レースでは響かないものです。
「パンが一番おいしかった」
このひとことには「あー確かに」と庶民のフレンチに対する感情がギュッと凝縮されています。
繊細な味と盛り付けが楽しめる前菜、ひと口で奥深さが伝わるスープ、厳選素材を巧みの技で仕上げたメインデッシュ。にもかかわらず、シェフの長年の努力とこだわりを一蹴するパンへの高評価。悲哀の上で巻き起こる大爆笑です。
そもそもみなさんはフレンチにどんなイメージをお持ちでしょうか?
結婚式のときに出てくるやつ、大きな皿に少量が乗っているやつ、マナーがいちいち面倒くさいやつ。
いろいろありそうですが、たぶん一番多いのは値段も敷居も高い「フレンチ=高級」だと思います。ギャロップのネタで笑いが起こるのも、庶民にとってフレンチは高級であるという共通意識があるからです。外車と一緒で高級でなければフレンチじゃないくらいの認識だと思います。
ではギャロップのネタがフレンチの高級感を揶揄しているのかといえばそうとも言い切れません。
具体的な料理名がひとつも浮かばないフレンチの不思議
高級かどうかの前に多くの人たちがフレンチのことをよく知らないからこそ、このネタが成立していると考えられます。
イタリアンだったらパスタとピザ、中華だったら麻婆豆腐と小籠包、インド料理だったらカレーとタンドリーチキン。パッと思いつく料理名のひとつやふたつは必ず出てくるものです。
フレンチはどうでしょうか?
ガレットでもフォアグラでもブルドッグでもなく、すぐに出てきそうなのはフランスパンです。料理といえるかはどうかはさておき、外はカリカリで中はフワフワなパンのイメージは誰の頭の中にもあることでしょう。逆にいえばパン以外のイメージがないということです。
ラーメンを食べたければラーメン屋さんに、カレーを食べたければカレー屋さんに行きますよね。なんとなくイタリアン、なんとなく中華という気分になることはあっても、頭の中には具体的な料理の絵が浮かんでいるはずです。
友人との会話で「あー腹減った、ちょっとフレンチでも食べに行かない?」とはならないですよね。
あるとすれば「ちょっといいレストランで食事しない?」です。
ほかには彼女にプロ―ポーズしたいから、大切なお客さんを誘いたいから、年に一度の結婚記念日だからという食事以外の目的があるときです。
つまりフレンチは料理名ではなく特殊なステータスやシチュエーションから入ることがほとんどで、お店の数も少ないことから行く機会もそうそうないと。
「俺のフレンチ」とか「ひらまつ」とかフレンチの多店舗展開はないわけではないですが、サイゼリヤやCoCo壱番屋の比ではありません。ただ価格帯もターゲットもまったく違うので比較することに意味はなく、わかる人にだけわかればいいというスタンスも十分に理解できます。
話は変わりますが回転ずし店で「サーモン最高!」と感動している外国人観光客に対してこう思うことはありませんか?
おいしいネタはほかにもたくさんあるのに。コハダとかアナゴとかウニとか。
回転ずしの普及によって寿司は民主化されました。「小僧寿し」や「銀のさら」の存在も無視できませんが、特別な日にだけ食べられた寿司がいつでも気軽に食べられるものに変わったのは回転ずしの影響が大きいはずです。
だからといって寿司=高級のイメージが消えたわけではありません。高級店は高級店として、回転ずしは回転ずしとして独自の食文化を確立しています。
フレンチが民主化される日は来るのでしょうか?
「パンが一番おいしかった」
フレンチ界の異端児がイノベーションを起こさない限り、10年後も20年後もこのネタで笑うことができそうです。