04.05
今日もまた社員が辞めたいと言ってきた(零細企業編)
従業員5人以下の零細企業にとって新人の退職は深刻な悩みです。ところが現実は1年持てばいい方で半年はおろか1ヵ月、いや1週間、まさかの3日、驚愕の1日で辞めてしまうとかバイトレベルのフルスピード退職もめずらしい話ではありません。自ら志望してきたはずの新入社員が会社を去る理由とは一体なんなのでしょうか?
零細企業では入社後わずか4時間で先が見えてしまう
会社を辞める理由はいろいろありますが、わりと誠実なのが「先行きが暗い」です。つまりここまま会社にいたところでハッピーにはなれないだろうと。大手はもちろん中規模の会社であれば1日や2日で数年先、数十年先の未来など想像できません。現状でさえ把握するのに数週間はかかると思います。組織ってそんなに単純じゃないですからね。
ですが、零細企業は半日、おそらく4時間もあれば全部見えてしまいます。
ちょっと広めだったとしてもせいぜい半径5メートル以内の話ですから、アレもコレも丸見えの丸聞こえの丸わかりです。たとえば隣の席にため息ばかりついている背中を丸めた40過ぎの先輩社員がいたとしましょう。言うまでもなくそれは未来の自分です。どんな会社でも「ヤバイな」と思う人はいるものですが、100人に1人と5人に1人では危機感がまったく違います。
普通に考えれば社員が会社に期待するのはマネー(Money)、スキル(Skill)、ポスト(Post)のMSPです。よく聞く働きがいもMSPなしには語れません。
長く働くほどたくさんの給料がもらえ、頑張っただけ知識と経験が身につき、能力相応の立場が与えられると。この当たり前のようで案外そうでもないイメージがあるからこそ、残業や休日出勤も若さゆえのパワーで乗り切れ、会社のため自分のためにとポジティブに働くことができるわけです。
しかしながら零細企業にこのMSPを求めるのは現実的じゃありません。昇給なしのボーナスなし、つぶしが効かない仕事ばかり、定年までなにも変わらず平社員のまま。なにもブラック企業の話ではありません。毎日が死ぬほど辛いというほどでもないけど気づけば「いつ辞めようか」と考えてしまうような零細企業のよくある内情です。
にもかかわらず人数が少ないだけに1人当たりの負担は大きく、代わりもいないので休みが取りにくいという問題があります。また家賃補助や通勤手当が出ないなど入社してから出てくる不都合も少なくありません。大手に勤める友人と待遇を比較したときに「マジか?」とそのヤバさに気づくこともあるでしょう。という意味で転職系サイトの口コミはパンドラの箱なのかもしれません。
中間管理職が機能していない会社は内戦が止まらない
零細企業の募集枠は通常1人です。同期入社の仲間はいません。SNS映えしそうな大手の入社式のキラキラ感はなく、近場の居酒屋で乾杯の今日からヨロシクという流れでヌルッとした社員生活がはじまります。
ただこのアットホーム感が零細企業の魅力ともいえます。大きな会社にありがちなギスギスの競争関係を避けたい人にはウェルカムな環境のはずです。社長は父のようで奥さんは母のようで、先輩は兄や姉のようで、家族の一員みたいにかわいがってくれると。居心地のよさは見逃せない条件のひとつです。
人間関係さえよければ職場が苦にならず長続きします。ただ忘れてはいけないのが零細企業は社員が5人以下の小さな会社だということ。5人のうち1人を自分だとすると4人との関係が重要になります。
特に兄や姉の立ち位置にいる先輩の役割が重要で「中間管理職として機能しているかどうか」が見極めのポイントになります。が、残念ながらというかやむを得ないというか零細企業にその機能は存在しません。
もう少し大きな会社でも社内に中間管理職がいるかいないかで離職率は変わってきます。
中間管理職といえば上にも下にも気を回さなければならない辛い立場的なイメージがあると思います。実際にその通りで憎まれ役&叩かれ役です。半沢直樹のような勧善懲悪の世界ではバッサリ切られ役として活躍します。平社員より偉いのに貧乏クジ同然の中間管理職ですが、実は企業の成長と平和維持に欠かせないキーパーソンなのです。
見過ごされているのが緩衝材としての役割です。隣の部屋の話し声がうるさくて直接文句を言いにいったら殴り合いのケンカになったとか、当たり前ですが隣人トラブルは距離が近いがために起こります。もし間にモノ分かりのいい兄貴分が住んでいればクッション的な役割を担ってくれることでしょう。と同時に問題を共有する仲間にもなってくれます。
「ウチの会社には中間がいない」という話を聞いたことはありませんか?
年齢でいえば30代後半~40代半ばぐらいでしょうか。人数はそれなりに揃っているのに20~30代前半の若手社員がほとんどで、上を見れば社長も含めて50代のおじさんたちが数人いる程度。神隠しにでもあったかのようにちょうど中間が見当たらず。続けるか辞めるか悩んだ人たちが転職市場の限界年齢といわれる35歳前後で外に出て行った結果、ハイパーブラック企業によく見られるいびつなひょうたん型ピラミッドが形成されてしまうのです。
零細企業はその縮図です。
同期も中間管理職もいない中、5年、10年と孤軍奮闘を続けるにはジャン・ヴァルジャン並みの忍耐力が必要なのかもしれません。
もうフラれたくない!小さな会社の退職撲滅作戦
と、ここまで零細企業の社員が辞めてしまう理由について話してきましたが、問題解決の提案はまだなにもしていません。
人手不足で困り果てている社長さんも退職願いなんかもう見たくないはずです。
ではどうすれば長く続けてもらえるのでしょうか?仕事の内容、給与や休日など待遇を変えずにできること、零細企業のための「退職撲滅作戦」は以下の3つです。
(1)定期的なヒアリングを行う
(2)第三者からの情報を得る
(3)いつ辞めてもいいと伝える
(1)の「定期的なヒアリングを行う」はそのままの意味で社員の話をじっくり聞くということです。居酒屋とか就業後に別の場所に移動するのではなく、勤務時間内かつ職場で行いましょう。外で飲みながらだとどうしても上から目線の「聞いてやる感」が出てしまうため、社員の話を聞くことも大切な仕事と考えます。季節が変わるごと、半年に1回とか。定期面談という名の社内カウンセリングを実施することで、社員がひとりで考え込まないようにしておきます。精神的な孤独はバッドエンドにレッツゴーなだけですから。
(2)の「第三者からの情報を得る」は普段の仕事の様子や知り得ない事実を把握しておくことです。家ではなにも話さない一人息子、将来をどう考えているのだろうか、だが彼の友人の話によると宇宙に関心があり、大学卒業後はJAXAへの就職を考えているらしい。みたいな感じで社長さんが直接問いかけるのではなく、先輩社員など近しい人物から情報を仕入れます。これである日突然「辞めさせていただきます」と言われる前に先手を打つことができます。決断したあとでは手遅れですが、まだ迷っている段階なら説得の余地があるのではないでしょうか。
(3)の「いつ辞めてもいいと伝える」は逆説的な手段です。そんなこと毎日言っていたら本当に辞めてしまうので、面接のとき、そして1年に1回のペースで伝えておきましょう。いつでもできることはなかなかやらない、という人間の行動心理の裏をついた作戦です。なんとなく後回しにしていることってありますよね。いつか行こうと思っていたお店がいつの間にか閉店していたとか。満を持して退職を申し出てくる人ほど「俺がやめたらきっと会社も困るだろう」という歪んだ思惑があります。しかしながら本当は困っていても余裕をかますことが立場的に大切。社員vs社長の駆け引きでありポーカーみたいなものです。
もうひとつ付け加えると、とにかく明るい話をするようにしてください。5人で漂流の末、流れ着いた無人島で交わされるのが絶望的な話ばかりだったら嫌ですよね。叱責より感謝の言葉を増やしましょう。社員に「すみません」と言わせたら負けです。いつか、もしかしたら、この会社でも。小さな会社だからこそ1人の言葉、特に社長さんの言うひとことは誰かの人生を左右するほどの重みがあるのです。
自ら志望してきた社員に辞めたいと言われるというのは、向こうから告白してきた彼女にフラれるくらいの消失感があります。その期間が短いほど「え、なんで?」という気持ちになってしまいます。今からでもできることをできる範囲で対策しておきましょう。