2023
06.29
要求もなければ提案もないまま制作された企業PVの末路

要求もなければ提案もないまま制作された企業PVの末路

CONTENT MARKETING

そろそろ飽きてきたころかと思っていますが、中小企業の動画需要はまだ伸びしろがありそうです。テレビCMは無理でもYouTubeなら予算的にOKかつアーカイブとして動画を残せます。そのお得感もあってPV制作を希望する会社さんは多いものの、費用鯛効果は激薄だったりします。

どこかで見たようなテンプレPVが大量生産されている

楽しそうな職場の雰囲気、真剣な表情をアップで、適当なテロップをつけて、左右のスライドを繰り返し、ドローンでグーンと引いて、最後にロゴなんかが出てきてフェードアウト。

という企業PV、めちゃくちゃ多くないですか?

ひとつのパターンといえばパターンですが、要求なのか提案なのかわからないもののどっちもどっちのような気がします。

ただ「PVってこういうものでしょ?」みたいな風潮は確かにあって、そこから抜け出せない窮屈な状況も感じられるため、もうそろそろ建設的に崩壊するのではと予想しています。

動画制作を生業にしているフリーランスの方は特にそうですが、時流に乗っていることもあって5年くらい前からずっと忙しいはずです。需要過多の中ではどうしても作業効率の向上が求められます。1本仕上げてまた1本とやっつけ仕事とまでは言いませんが、パターンに当てはめたテンプレPVにしないと納期に間に合わないという事情もあるのでしょう。

クリエイティブに徹しきれない葛藤が感じられます。

たまに動画の撮影現場に居合わせることがあります。

基本的に絵コンテをもとに順次撮影を進めていくわけですが、画角やライティングには強いこだわりが見られるものの、全体を通じて黙々と作業をこなしている印象です。シーンによっては盛り上がる場面もありますが、撮影の序盤で仕上がりが予想できるというか、パターンにはまっているというか、ここからどう転んでもテンプレPVでしかないというか。声に出しませんが心の中では「早く終わってくれ」と思っています。

企画会議からやり直した方がいいような気がするものの、たまたま居合わせただけなので口出しする立場にありません。というか撮影当日ではもう無理です。

ドクターXを見ていても手術前のカンファレンスの重要性がよくわかります。群れることを嫌う一匹狼の大門先生も必ず出席していましたよね。ノウハウとテクニックだけで「私、失敗しないので」とは言い切れないのです。

きれいな動画ならクライアントはOKを出すしかない件

ではテンプレPVが失敗作のダメ動画なのかというとそんなことはありません。むしろ制作側もクライアントもオールOKなのでしょう。

理由は「きれいだから」です。

ごく普通の企業PVはきれいであればなんの問題もなく、ノンクレームでYouTubeにアップされていきます。

そして再生回数が伸びないと。

予算をかけて制作したのに1,000未満の再生回数に留まっているPVがゴロゴロとあるわけです。

どこかで見たようなテンプレPVですから繰り返し視聴する気にはならず、SNSで広がることもなく、最初に告知した分の数字しか取れないのは当然かもしれません。

とはいえPVというカタチを残すことに価値を置いているクライアントも少なくありません。その辺の感覚はインターネット黎明期のホームページ制作によく似ています。需要の山がホームページからPVに変わっただけでノリは一緒です。

目的を考えずに「今どきはねぇ、PVくらいあった方がいいんじゃないの?」レベルで撮影スケジュールを立ててしまうのです。

映像作品ですから、きれいであることは品質的にも外せない条件です。花とか景色とかならそれで十分ですが、企業PVとなると「きれい」は誉め言葉にならず、ほかに持ち上げる要素が見当たらないからとりあえず言っておくぐらいじゃないでしょうか。

なぜPVをつくるのか?YouTubeは手段のひとつに過ぎない

クライアントの立場で考えると仕上がりには満足していても、再生回数が伸びないことにはなんらかの疑問を持つはずです。

こんなにきれいなPVができたというのに。

なぜ見てくれる人が少ないのか? なぜ反応が薄いのか?

公開直後はテンション高めなのでそんな疑問があってもおかしくありません。が、1ヵ月後にはもうどうでもよくなっています。

どうでもいい動画を制作して、どうでもいい動画を公開しただけです。

なぜこうなってしまうのかというとクライアントからの要求がなく、制作側からの提案もないからだと考えられます。

こと動画においてはクライアントからの要求レベルが低い可能性があります。たとえばYouTubeで雰囲気よさげなものを見せて「こんな感じの動画をつくりたい」とか。さらには「ドローンいいよね」とか。

これがカタチにこだわるテンプレPVの第一歩です。

誰になにを伝えて、どういう効果を生みたいというマーケティング的な要求がないまま見積りを出してほしいと。

要求レベルが低いから提案レベルも低いのか。

要求が先か提案が先か。

たぶん提案が先の方が健全なのでしょう。

動画じゃなくてもいい、PVじゃなくてLPの方が効果的というケースもあるわけです。先にPVをつくりたいという要求があったからPVをつくった。よくあることですがこの手の話がなくならない限り、テンプレPVは増え続ける一方です。