01.20
飲食店のインタビューで「こだわり」を聞かない理由
数ある取材の中でも多いのが飲食店さんです。居酒屋、ラーメン店、カレー店、寿司店、イタリアン、お好み焼き屋、地元人気の高い町中華など。通りを歩けばお店に当たるほどたくさんの飲食店が軒を連ねています。今回はライター目線で飲食店インタビューのコツをまとめてみました。相手が飲食店だからこそ注意したい質問の作法とは?
聞いたこと以外はこたえてくれないという難しさ
インタビューの良し悪しは質問次第です。特に飲食店さんの取材では質問の選択に気をつけなければいけません。その理由は2つあります。
(1)取材に割ける時間が限られている
(2)聞いたこと以外はこたえてくれない
(1)については言わずもがなですよね。取材対象になりやすい飲食店はシェフ、マスター、大将と呼ばれる店主が切り盛りしている個人店がほとんどです。取材のタイミングがあるとすれば昼営業と夜営業の間だったりします。本来休憩や次の準備に当てている時間帯なので、話を聞けるのは20~30分くらいがいいところでしょう。必然的に質問の数も限られてきます。
それはそうと(2)の方が悩ましい話です。
飲食店インタビューは「聞いたこと以外はこたえてくれない」をどうクリアするかが課題になります。
たとえば友だちとの会話では質問と回答の繰り返しで話が進みますよね。
「なに食べる?」
「今日はカレーの気分かな」
「お店、知っている?」
「行きたい店があるんだ」
「ここから近い?」
「歩いて5分くらいだよ」
ここから話題のニュースとか共通の知人の話とか、盛り上がりそうな話に展開するにはどちらかが気を利かせなければなりません。本当に仲のいい友だちであれば無意識にできることですが、微妙に気まずさを感じる関係ってありますよね。
今さっき会ったばかりで、エレベーターに2人っきりとか。無言を貫くのも緊張するし、だからといって話題を提供するにしてもなにを聞けばいいのかよくわからないはずです。
質問と確認を区別することで取材効率は上がる
事前にアポを取っているとはいえ、飲食店の店主さんのような取材対象との関係も似たようなものです。客商売なので笑顔と声は明るいものの、その心の内はたぶんこんな感じではないでしょうか。
「聞いてくれたらこたえるよ」
つまり聞かれないことにはこたえないという受け身のスタンスです。本来ならオフの時間をいただいているのでそりゃそうなのかもしれませんが、インタビューする側としては一計を案じなければなりません。
ただこういう考え方もあると思います。だったらたくさん質問すればいいんじゃねーのと。確かに時間が限られていて20~30分しかないとしても、矢継ぎ早にあれこれ聞いていけば撮れ高十分の回答が得られるような気がします。
が、しかし考慮すべきはインタビューされる側の気持ちです。
バタバタの慌ただしい営業を終え、ようやくひと息つけるタイミングでの質問攻めは普通にイヤですよね。負担に負担を重ねるような取材は避けるのがビジネスマナーです。
ではどうすればいいのでしょうか。
おすすめなのは質問と確認を区別することです。
仮に店主さんへの質問を100個用意するとしましょう。
年齢とご出身は?どこで料理を学んだ?独立のきっかけは?なぜこの場所に?店名に込めた思いは?人気のメニューは?主な客層は?抱えている課題は?今後の夢は?
本当に100個用意する前に「あっ」と気づくはずです。あらたまって聞くほどでもない質問が半分以上あることに。
オープン間もない新店でもない限り、基本情報はすぐに入手できますし、SNSやレビューサイトを見ればほとんどの疑問は解決します。わかった上で聞くことはありますが、それは質問ではなく確認です。効率よく回答を得るために質問と確認を組み合わせるのも有効なテクニックといえます。
たとえば「ご出身は沖縄だそうですが、なぜ茨城でお店を?」と聞けば、なにか具体的なエピソードを引き出せそうですよね。
こだわりを聞かずにこだわりを引き出す
聞くことを絞らなければならないとはいえ、どうしても外せないというのがこの質問だと思います。
「こだわりはなんですか?」
こだわり、こだわり、結局聞きたいのがこだわり。
残念ながらそう聞いて出てくるこだわりはメニュー表、ホームページ、SNSに書いてあることがほとんどです。さっきの話でいうところの確認事項に過ぎません。
取材依頼の多い飲食店、いわゆる行列店やめずらしさで話題のお店の場合は訪問前に他の記事をチェックしたりします。実際に読んでみるとほぼ似たようなことが書かれていて、こだわりについても同様です。同じ店ですから当たり前ですよね。
どうせ取材するならひと味違う記事に仕上げたいところです。そのためには質問から変えなければなりません。
ということで、こだわりを聞かずにこだわりを引き出してみましょう。
いろんな切り口が考えられますが、たとえば朝起きてから厨房に入るまでのルーティンを聞いてみるのはどうでしょうか。人間のこだわりは習慣化されているものです。サラリーマンの方でも朝の10分読書を欠かさないとかありますよね。
朝食の前に近所を散歩して、その途中の神社に立ち寄ります。神様にあいさつしたあとゴミ拾いしながら帰ります。
と、店主さんが言ったときは神社とゴミ拾いについて深掘りします。
商売は水ものですから、神様と向き合うことで平常心を保っています。ゴミ拾いが正しいのかどうかわかりませんが、小さいことでもいい行いを繰り返せばなにかしら返ってくるのではと考えています。
これがいわゆる繁盛店だとしたら意外な習慣ですよね。人気の裏には真摯で人間らしい心掛けがあると。表向きのこだわりよりも読者に響くいい話だと思います。
インタビューはどうしても時間を気にしてしまいがちです。でも時間がないからといって急かすような質問は避けましょう。急がば回れが取材の基本。質問の角度を変えることで、正攻法では味わえないおいしいこたえが返ってくるのです。